n この物語と時代を同じくする、唐時代の事蹟に關する支那人の記録に對照して、この物語の記事の確實なることを證明すること。
 (2)[#「(2)」は縦中横] 不幸にして唐時代に關する支那人の記録に、直接の證據見當らぬ場合には、唐以前の、若くば唐以後の事蹟で、この物語の記事と相發明するに足るものを、支那人の記録中から探求し、これより推して、アラブ人の所傳の信憑すべき程度を明瞭にすること。
 (3)[#「(3)」は縦中横] 『印度支那物語』の記事にも間々誤謬がある。この誤傳を支那人の記録に據つて證明すること。
 (4)[#「(4)」は縦中横] アラブ人の所傳と發明すべき、若くば關係ありと思はるる記事が、諸外國人の記録中に見當る場合は、成るべく之を蒐集して參考に供すること。
以上の四點、殊に最初の三點に重きを置いた。
 吾が輩は『印度支那物語』に據つて、唐代の支那人の風俗、習慣を研究する序に、出來得べくんば、更に溯つてその風習の起源、又は沿革をも探討したいと心掛けて居る。之が爲に問題によつては、先秦時代より現時に至るまで、上下三千餘年に亙つて、支那文獻を渉獵するは勿論、時には廣く諸外國人の記録をも參考せなければならぬ場合も尠くない。かかる事情の下に、注意に價する程の結果を收めることは、豫期以上の困難を感じたが、併し今日ではこの未開の學田から、多少の收獲を得たかと思ふ。故に不十分を自覺しつつ、その收獲の一部を發表することにした。
 支那人間に於ける食人肉の風習は、獨立した一論文として茲に掲載したが、實は上述の如き研究の一端に過ぎぬ。從つて發表の形式も、普通の場合と異にして、『印度支那物語』の記事を論文の冒頭に掲載することにした。爾後若し引續きこの物語に關する研究の結果を發表する場合には、之と同樣の形式を採りたいと思ふ。『印度支那物語』の記事に就いては、Renaudot, Reinaud, Ferrand 三氏の譯文を參考したが、大體に於て學界に廣く用ひられて居る Reinaud 譯に據ることにした。但し彼此の譯文に、注意に價する程の相違がある場合には、特にその旨を附記する。

         一

 (※[#ローマ数字I、1−13−21])[#「(※[#ローマ数字I、1−13−21])」は縦中横] 支那では時々地方の都督(gouverneur)が、その最高の王(即ち皇帝)に
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