2−89−44]頓の如き、古代の人名まで使用して居る。此等の地名の的確なる位置は、隋時代に多く不明であつた筈と思ふ。尠くとも隋の統監部では確知せなかつた筈と思ふ。殊に滑稽なのは※[#「あしへん+(榻−木)」、第4水準2−89−44]頓である。※[#「あしへん+(榻−木)」、第4水準2−89−44]頓とは東漢末に遼東方面で勢を振つた、烏丸種族の酋長の名である。無知な統監部は、人名を地名と間違へたらしい。かかる指令を平氣で發する統監部も、かかる指令を呑氣に受ける部隊も、共に呆れ果てたものでないか。抑※[#二の字点、1−2−22]不明な地方や、存在せぬ土地へ、發向すべき命令を受けた當時の各部隊は、如何なる行動を取つたであらうか。世間では支那人を實際的といふ。それも半面の眞理であるが、同時に他の半面では、彼等は存外非實際的なところもある。戰爭の如き生死存亡に關する大事件にも、彼等は呑氣に古代の地名を使用する。不確でも不明でも、古代のものがよいといふ、支那人氣質の一端であらう。〕
 古人や先例を引き出せば、支那人は得心もし信用もするから、自然支那には古人の名に託した僞書が多い。『神農本草經』とか
前へ 次へ
全38ページ中29ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
桑原 隲蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング