立て、僅に一日の中に、さしもの巖石城を陷落さした。この軍威に風靡して、間もなく九州平定の功を收むることが出來た。
安市城と巖石城とは、必ずしも同樣に行かぬかも知れぬ。併し李勣が氏郷と同一の覺悟をもつて居つたら、今少し何とか良き結果を收め得られたに相違ない。武將としての氏郷の聲望は、遙に李勣の下に在らうが、自分の責任を重ずるといふ點では、萬々李勣に優つて居る。
責任の自覺、自覺に對する決心、之が我が武士道の神髓である。支那の軍人はここに缺陷がある。支那の梁啓超は曾てその『飮氷室文集』の中に、日本人には日本魂がある。即ち武士道である。然るに支那人には中國魂が見當らぬ。日本と支那との強弱の岐るる原因はここに在る。故に支那今日の最大急務は、日本人の日本魂に劣らぬ中國魂を製造するに在りと主張したことがある。中國魂はしかく容易に製造し得るであらうか。西洋人の中には、支那にも日本に於けるメッケル、トルコに於けるゴルツの如きものあらば、有力な軍隊が組織されると信じて居る者が多い。メッケルやゴルツでも、支那人に中國魂を與へることは容易であるまい。梁啓超の所謂中國魂の成否が、支那の今後の運命の岐かるる
前へ
次へ
全38ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
桑原 隲蔵 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング