へたといふ(27[#「27」は縦中横])。ヨーロッパの中世紀に紙は普通にバンビク紙(Charta Bambycina)、若くはダマスク紙(Charta Damascus)と呼ばれて居る。Bambyce とは Euphrates 河(『唐書』の弗利剌河)の右岸にあつた一都會である。Damascus(元代の的迷失吉《ダマスク》)は申す迄もなく Syria 地方の名都會である。當時マホメット教國からヨーロッパへ輸入した紙は多くこの地方の産であることが察知される。今日ヨーロッパ諸國の紙に關係ある言葉で、アラビア語から派生して居るものもある。一例を擧げると、英語で紙一|束《しめ》を Ream といふが、之はスペイン語の Resma イタリー語の Risma ドイツ語の Ries フランス語の Rame と等しく、何れもその語源をアラビア語の Rezma に求むべきである(28[#「28」は縦中横])。Rezma とは元來小包の意味である。

         五

 オーストリーのウイーンに Rainer 太公といふ貴族があつて、古紙の蒐集で世間に聞えて居る。今より三十餘年前たしか西暦千八百七十
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