ーを爆発させた。
「こんなに貧乏な目しているのに、あなたは何と思ってそんな世話のやける動物なんか買って来たのよ? わたしがいやな思いして月末の間代に階下《した》へ恥かかんようにと気をもんで稼ぎためた大事のお金を、こんな鼠小舎なんか作るための材料代に遣われてはたまらないわ、ほんとうに。」
「たったお前、三十五銭の板一枚かって来た丈けじゃないか……。」
「それだって、もう五六銭だせばお米が一升かえるじゃないの。」
「やかましく言ってくれるな、今に俺だって適当な仕事さえ見つかれば働くよ。」
「わたし、癪にさわるからこんな鼠なんか殺して了ってやろう……。」
 彼女はこう言い乍ら、彼が紙屑籠の仮小舎から新たに作った箱の中へモルモットを移そうとしているところを、屑籠もろとも矢庭に其処へひっくり返して小さな動物を蹴ちらかした。するとモルモットはキュウキュウと悲鳴を挙げて二ひきがもつれ合い乍ら辺りを逃げまどうのであった。けれども彼女の昂奮がややさめてから怯えているものを再び拾いあげていたわりつつ、新調した衛生的な家の中へ入れて潰し麦を与えると、けものは大分なれた如くグルグル、グルグルッと喉を鳴らして食
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