洞の部屋の隅に二つ体をくッつけて顫えていた。散らばった麦を拾い終ると、彼は箒をとって一ペん其処を掃いた。そして紙屑籠に草を敷いてモルモットを入れ、これを枕許に置いてやすんだ。
翌日、彼が階下の裏でモルモットの箱を作っていると妻が戻って来た。そして彼女はいきなり不機嫌に良人を呶鳴った。
「あなたは、のんきそうに一体なにをしているの!」
「モルモットの箱だ。」彼はおとなしく答えた。
「あんな鼠なんかに、そんな凝った小舎を拵えてやることないわよ。昨夜なんかわたしが何時まで待っていても、何処へ行って了ったのかちょっとも帰って来ないんだもの。そのうえ昨夜と来たら、悪い客に許り当って一厘にもならないので癪にさわって癪にさわって仕様が無い。」
彼女はブリブリし乍ら二階へあがって行った。
「モルをいじめるなよ。」彼はあとから声をかけて彼女をたしなめた。
暫くすると動物の小舎が出来あがった。一尺立方くらいな箱に抽斗《ひきだし》をつけて網を張り、その網の間からおしっこや糞《ふん》が抽斗の中へ洩れて何時も清潔な処に動物がいるように考案した鳥籠風な小舎。彼がそれを持って二階へあがると、彼女はまたヒステリ
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