モルモット
細井和喜蔵
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)社《やしろ》の境内
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一
永いあいだの失業から生活難に追われて焦燥し、妻のヒステリーはひどくこうじて来た。彼女はちょっとした事にでも腹を立てて怒る、泣く、そしてしまいのはてには物をぶち投げて破壊するのであった。そうかと思うとまた、ありもしない自分の着物をびりびりっと引き裂いて了う。
彼はそんな風に荒んだ妻の心に、幾分のやわらか味を与えるであろうと思って、モルモットの仔を一つがい買って来た。牝の方は真っ白で眼が赤く、兎の仔のようである。そして牡の方は白と黒と茶褐色の三毛で眼が黒かった。
「おい、いいものを買って来たよ。」
「まあ! 可愛い動物だわねえ。それ、何を食べるの?」
「草を、一番よろこんで食べるって話しだ。」
「眼が、まるでルビーみたいねえ、何て綺麗に光るんだろう……早く草を取って来ておやりなさいよ。」
モルモット屋の小舎の中に、数千頭かためて飼われて、多くの友達をもっていた
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