賽の目にきつた餅と昆布とを四方の隅をひねりあげた和紙の器にいれて、畑へ持つてゆき、鍬で一寸麥畑をさくつて門松の一枝を※[#「「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている」、第4水準2−13−28]し、そこへ供へる。畑に供へるのだが、その時大聲をあげて、
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からあす、からすからす
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と山の烏を呼ぶ。
 烏は元來人を怖れぬずるい鳥であるから、不思議にこの日を覺えてゐて、山から飛んできて御馳走になる。權兵衛が種子蒔きや烏がほじくるといふナンセンス譬ひもある通り、農作物を荒す害鳥なのだが、せめて正月だけは御馳走しやうといふ昔の人のいいほどこしが、今尚ほ農のはじめの鍬入りの日に行はれるのだ。

        ななくさがゆ

 正月七日粥をつくる。七種を混じたる粥で米、粟、黍子、稗子、胡麻子、小豆でつくるのが正式らしいがこの邊では野菜を多く入れる。
 冬菜、芋、大根、米などでつくり、七いろはいれない。その菜や大根を刻む時
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七くさ なづな
唐土の 鳥が
渡らぬ 先に
ストトン、トントン
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と唄つて、調子をとり
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