りを鎭めた。入道の目玉は一面赤く一面白くした。風が吹くと空中に突立つて、くわつと見開いた眼がくるりとなつたと思ふと白く、くるり回ると赤くなつた。
二枚位の凧を上げてゐて不思議に思ふことが一つあつた。それは日沒後まだあかねの射す頃、十分に上つた凧が惜しくて下さずに遊んでゐると、風はばつたり止んでしまつても凧の下りぬ事だつた。小づかひを貰ふ度糸を買足し/\して、たるみにたるむ程長く伸してるのだから、凧は可なり遠く高く、風の吹き止んだ夕暗の中にぽつんと浮んでゐるのだ。二度ばかり出くはした。下界の風は凪いでも、天空には不斷に吹いてゐるのであらう。
溶けやすきは春の雪だ。半井桃水の名は樋口一葉を聯想して忘れられぬが、其書いた物の中に、惡黨に追はれて雪の中を逃げ廻る女が、逃げながら『何某にここでころされてしにます』と足あとで印したといふのがあり、飛行機の煙で空中に文字を綴るなら知らぬ事殺されかけてゐる雪の中でさうした文字を足あとで殘す事はホルムスも知らなかつたであらう。
私達は國色無双の麗人が駿馬痴漢を乘せて走る悲しみあるを知つてゐる。それと同時に不斷推服せる女性がなアんだあんな奴と結婚し
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