春
横瀬夜雨
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている」、第4水準2−13−28]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例))ぬる/\した
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露じもの降りる朝もあるにはあるが、木の芽稍ふくらんで暖かい日和の續く三月。常磐木ならでは野に青い物は無い。軒の下などに霜げ殘りの坊子泣かし[#「坊子泣かし」に傍点]だけが去年からの命を青く保つてゐる。まだ有る。戸袋の脇に誰かが厄病除にぶら下げたにんにく[#「にんにく」に傍点]から延び出した青い芽。かうして太陽は南方から回つて來るのだ。
ひる過ぎ、學校から戻つた子供達の鞄からいろんな物がのぞいてゐる。お彈きのガラス玉、積細工の人形の首、空氣枕のネヂ、コードの切れなど。何處で摘んだかまだ咲き切らぬやぶ蘭の花も交つてゐる。
やぶ蘭は子供の誰もがをかしがる。ひらくと、男の物、女の物の格好そつくりになるからだ。ぢぢばば[
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