#「ぢぢばば」に傍点]と呼んでゐる。色がまた變なのだ。たちの惡い子供は、花と花とをおつつけ合つて、爺さん婆さんが寢てるんだとはやす。親達はめん喰ふ。
山の春の期待に澱みなくふくらんでゐる、裸の木で春早く囀るは四十雀だ。常陸野は明るい。筑波は近く富士は遠く、筑波の煙は紫に、富士の雪は白い。風はあつても、枝々をやんわり撫でて行くに過ぎぬ。
林の中には斧の音。春は木の伐時なのだ。
かうした時、林のすみから拔かれて來たやぶ蘭の莟を見て、心はたのしく春のことぶれを祝ふ。
アネモネに似た花に翁草がある。野生の草だが、一寸猫柳に似た天鵝絨のやうな銀いろの軟毛につつまれた、アネモネよりは厚ぼつたい感じだ。花びらのやうに見える濃紫の美しい六枚の萼。やがて雌ずゐが延びると、羽毛状の痩せた果が群がり生る。其形が白髮に似てるので翁草といふらしいが、常陸ではおちごかんぱ[#「おちごかんぱ」に傍点]といつてゐる。稚兒の頭に見立てた名であらう。かんぱは禿の義。實が入るとたんぽぽ[#「たんぽぽ」に傍点]のおばはん[#「おばは」に傍点]のやうに、少しの風にも飛び出す。女の子は實のいらぬ前に採つて來て、毛を二つ
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