じゃ。」おしかは笑った。
だが清三の頭痛は次第にひどくなってきた。熱もあるようだ。おしかは早速、富山の売薬を出してきた。
清三の熱は下らなかった。のみならず、ぐん/\上ってきた。腸チブスだったのである。
彼女は息子を隔離病舎へやりたくなかった。そこへ行くともう生きて帰れないものゝように思われるからだった。再三医者に懇願してよう/\自宅で療養することにして貰った。
高熱は永い間つゞいて容易に下らなかった。為吉とおしかとは、田畑の仕事を打ちやって息子の看護に懸命になった。甥の孝吉は一日に二度ずつ、一里ばかり向うの町へ氷を取りに自転車で走った。
おしかは二週間ばかり夜も眠むらずに清三の傍らについていた。折角、これまで金を入れたのだからどうしても生命を取り止めたい。言葉に出してこそ云わなかったが、彼女にも為吉にもそういう意識はたしかにあった。彼等は、どこにまでも息子のために骨身を惜まなかった。村の医者だけでは不安で物足りなくって、町からも医学士を迎えた。医学士はオートバイで毎日やってきた。その往診料は一回五円だった。
やっと危機は持ちこたえて通り越した。しかし、清三は久しく粥と卵ば
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