老夫婦
黒島傳治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)両人《ふたり》は
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)うら[#「うら」に傍点]が
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ごつ/\云った。
−−
一
為吉とおしかとが待ちに待っていた四カ年がたった。それで、一人息子の清三は高等商業を卒業する筈だった。両人《ふたり》は息子の学資に、僅かばかりの財産をいれあげ、苦労のあるだけを尽していた。ところが、卒業まぎわになって、清三は高商が大学に昇格したのでもう一年在学して学士になりたいと手紙で云ってきた。またしても、おしかの愚痴が繰り返された。
「うらア始めから、尋常を上ったら、もうそれより上へはやらん云うのに、お前が無理にやるせにこんなことになったんじゃ。どうもこうもならん!」
それは二月の半ば頃だった。谷間を吹きおろしてくる嵐は寒かった。薪を節約して、囲爐裏も焚かずに夜なべをしながら、おしかは夫の為吉をなじった。
おしかは、人間は学問をすると健康を害するというような固陋な考えを持って
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