るのも、息子がそれだけえらくなるのだと思うと、慰められないこともなかった。
「清よ、これゃどこの本どいや?」為吉は読めもしない息子の本を拡げて、自分のものゝように頁をめくった。彼には清三がいろ/\むずかしいことを知って居り、難解な外国の本が読めるのが、丁度自分にそれだけの能力が出来たかのように嬉しいのだった。そして、ひまがあると清三のそばへ寄って行って話しかけた。
「独逸語。」
「……独逸語のうちでもこれは大分むずかしんじゃろう。」
「うむ。」
「清はチャンチャンとも話が出来るんかいや?」おしかも楽しそうに話しかけた。清三は海水浴から帰って本を出してきているところだった。
「出来る。」
「そんなら、お早よう――云うんは?」
「……」
「ごはんをお上り――はどういうんぞいや?」
「えゝい。ばあさんやかましい!」
「云うて聞かしてもよかろうがい。」おしかはたしなめるように云った。
「えゝい、黙っとれ!」
「お、親にそんなこと云《い》よれ、バチがあたるんじゃ。」おしかは洗濯物をつゞくっていた。
清三は書物を見入っていた。ところが、暫らくすると、彼は頭痛がすると云いだした。
「そら見イ、バチ
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