めた。
「いゝや。もう食えん。」
「たったそればやこし……こんなに仰山あるのに、またあいらが戻ったら笑うがの。」
「そんなら誰れぞにやれイ。」
「やる云うたって、誰れっちゃ知った者はないし、……これがうち[#「うち」に傍点]じゃったら近所や、イッケシの子供にやるんじゃがのう。」
 ばあさんは田舎のことを思い出しているのだった。うちとは田舎の家のことだった。
「お、やっぱりドン百姓でも生れた村の方がえいわい。」
 夕方、息子夫婦がつれだって帰ってきた。
「お土産。」と園子は紙に包んだ反物をばあさんの前に投げ出した。
「へえエ。」思いがけなしで、何かと、ばあさんは不審そうに嫁の顔を見上げた。
「そんな田舎縞を着ずに、こしらえてあげた着物を着なされ。」と、嫁より少しおくれて二階へ行きながら清三が云った。
 ばあさんは、じいさんの前で包みを開けて見た。両人には派手すぎると思われるような銘仙だった。
「年が寄ってえい着物を着たってどうなりゃ!」両人はあまり有りがたがらなかった。「絹物はすぐに破れてしまう。」

      六

「あれに連れて行《い》て貰うよりゃ、いっそうら[#「うら」に傍点]等
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