さに、たび/\こんな話を繰り返えした。天子さんのお通りになる橋とは二重橋のことだった。
「今日、清三が会社から戻ったら連れて行ってくれるように云おういの。」
「うむ。」じいさんは肯いた。
しかし、清三は日曜日に二度つゞけて差支があった。一度は会社の同僚と、園子も一緒に伴って、飛鳥山へ行った。
「それじゃ花も散ってしまうし、また暑くなって悪いわ。」
と園子は気の毒そうに云った。
「明日でも私御案内しますわ。」
両人は園子に案内して貰うのだったら全然気がすゝまなかった。どこまでも固辞した。
清三夫婦が日曜日に出かけると、両人は寛ろいでのびのびと手を長くして寝た。誰れ憚る者がいないのが嬉しかった。
「留守ごとに牡丹餅《ぼたもち》でもこしらえて食うかいの。」とばあさんは云い出した。
「お。」
「毎日米の飯ばかり食うとるとあいてしまう。ちっとなんぞ珍らしい物をこしらえにゃ!」
けれども米の牡丹餅も、田舎で時たま休み日にこしらえて食ったキビ餅よりもうまくなかった。じいさんは、四ツばかりでもうそれ以上食えなかった。
「もっと食いなされ。」ばあさんは、二ツのお櫃の蓋《ふた》に並べてある餅をすゝ
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