なると、急に起きて、髪を直し、顔や耳を石鹸で洗いたてて化粧をした。それから、たすき掛けで夕飯の仕度である。嫁が働きだすと、ばあさんも何だかじっとしていられなくなって、勝手元へ立って行った。
「休んでらっしゃい。私、やりますわ。」園子はそう云った。
「ヘエ。」
「ほんとに休んでらっしゃい。寒いでしょう。」
「ヘエ。」ばあさんは火を起したり、鍋を洗ったりした。汚れた茶碗を洗い、土のついた芋の皮をむいた。戸棚の隅や、汚れた板の間を拭いた。彼女はそうすることが何もつらくはなかった。のらくら遊ぶのは勿体ないから働きたいのだった。しかし、それを嫁にどう云っていゝか、田舎言葉が出るのを恐れて、たゞ「ヘエ/\」云っているばかりだった。
「じゃ、これ出来たら下しといて頂だい。」
 おしかが、何から何までこそこそやっていると園子はやがてそう云い置いて二階へ上ってしまうのだった。おしかは鍋の煮物が出来るとお湯をかけた。
「出来まして……どうもすみません。」清三が帰ると園子は二階から走り下りてきて食卓を拡げた。
「じいさん、ごぜん[#「ごぜん」に傍点]じゃでえ。」ばあさんは四畳半へ来て囁いた。
「ごぜん[#「
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