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行かばわれ筆の花散る処まで
いくさかな、われもいでたつ花に剣
秋風の韓山敵の影もなし
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 等があるばかりである。
 しかし、それは、この写生派、余裕派、低徊派等が戦争に対して反対であったからではなく、多くが無関心だったからである。自然主義文学が、資本主義的生産関係を反映し、あるがまゝに現実を描こうと企図したのに対して、この写生派、余裕派、低徊派等は支配階級の中に根強く巣喰っている封建主義を多分に反映して逃避的唯美的傾向に走っていた。それが、この派をして、社会的現実としての戦争から眼を蔽わしめたのである。
 以上のほか、硯友社派、及び自然主義派の作家で、全然戦争のことには手を触れなかった若干がある。だが、それは題材の関係であって、若し、それらの作家も戦争を書けば、恐らくその大部分が、当時支配的だった軍事的イデオロギーを反映したゞろうと思われる。

   第二章 戦時に動員されて簇出した小説

 まず、さきに、戦争に動員されて簇出した戦争小説にふれて置きたい。
 一八九四年(明治二十七年)朝鮮に東学党の乱が起って、これが導火線となって日清戦争が勃
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