を起すにあたって、従軍したつもりで作品に力を打ちこむと云われたと伝えられる。この一事にも、おのずから戦争に対する態度と心持が伺われるような気がする。
このほか、徳田秋声、広津柳浪、小栗風葉、三島霜川、泉鏡花、川上眉山、江見水蔭、小杉天外、饗庭篁村《あえばこうそん》、松居松葉、須藤南翠、村井弦斎、戸川残花、遅塚麗水、福地桜痴等は日露戦争、又は、日清戦争に際して、いわゆる「際物《きわもの》的」に戦争小説が流行したとき、それぞれ、こぞって動員されている。これは、取りも直さず、これらの諸作家が平常の如何に関らず戦争に際して、動員され得るだけの素地を持っていたことを物語るものである。岩野泡鳴には凱旋将軍を讃美した詩がある。
自然主義運動に対立して平行線的に進行をつゞけた写生派、余裕派、低徊派等の諸文学(夏目漱石などその門下、高浜虚子、長塚節、永井荷風、谷崎潤一郎等)については、森鴎外が、軍医総監であったことゝ、後に芥川龍之介が「将軍」を書いている以外、軍事的なものは見あたらない。たゞ、それらの文学と深い関係のある、或る意味ではその先覚者と目される正岡子規の、日清戦争に従軍した際の句に、
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