、兵卒を書くことによって、戦争を十分に描き出し得るとは云えない。将校の動きも、隊長も指揮官も、相手方の部隊の様子も、軍隊の背後に於ける国内の大衆の生活状態も、そこに於ける階級の関係も、すべて戦争と密接な切り離せない関係を持っている。が、それと共に兵卒は、背後のいろ/\な関係を集団としての自分達のなかに反映しつゝ、戦争に於ては最も重要な役割をなす。社会関係の矛盾も、資本主義が発展した段階に於て遂行する戦争とプロレタリアートとの利害の相剋も、すべてが戦線に出された兵卒に反映し凝集する。それは加熱された水のようなものである。蒸気に転化する可能性を持っている。だから、兵卒に着目したことには意義がある。
花袋は、独歩の如く、将校はいゝんだが、下士以下は不道徳で、女を堕落させるというような見方はしていない。兵卒を一個の生物的な人間として見た。そして、一個の死に直面した人間が、大きな戦争の動きのなかに病気に苦しみながら死んで行く。そこに、人生を暗示しようとした。客観的にあったことを、あったことゝして作品の上に再現しようとした。現実をあるがまゝに描くのである。結局、それも花袋の場合にあっては支配階級
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