の階級性に制約されているのであるが、独歩がより多く、支配する立場の者に着目したのに比して、花袋は、もうすこし(ほんのすこしばかりだが)下級の者に着目した。これは「田舎教師」についてもまた見られる。しかし折角、兵卒に着目しながら、花袋は、生と死を重視する生物としての人間をそこに見て、背後の社会関係や、その矛盾の反映し凝集した兵卒は見つけ出さなかった。また、見つけようともしなかった。そこに、自然主義者としての花袋の面目もある訳だが、それだけに、戦場の戦闘開始前に於ける兵士や部隊の動きや、満洲の高梁のある曠野が、空想でない、しっかりした真実味に富んだ線の太い筆で描かれていながら、一つの戦地の断片に終って、全体としての戦争は浮びあがらない。自然主義文学に共通の特色をなす、全体的なことを書きながらも、その中の個の追求が、こゝでも主眼となっている。幾分、地主的匂いがたゞよっている。
一兵卒の死の原因にしても、長途の行軍から持病の脚気が昂進したという程度で、それ以上、その原因を深く追求しないで、主人公の恐ろしい苦しみをかきながら、作者は、ある諦めとか運命とかいうものを見つけ出そうとしている。脚気は
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