まうのだ。これからさき、どうなることか!
二重硝子の窓を通して、空の橇が馭者だけを乗せて、丘の道を一列につゞいて下るのが見えた。馬は、人を乗せなかったことが嬉しいかのように奔放にはねていた。粉雪は一層数を増して斜に、早いテンポでさら/\と落ちていた。
「そうだ、あたりまえなら、今頃、あの橇で辷っている時分だ!」
彼は、ふと、こんなことを考えた。
伍長は、手箱の湯呑をいじっていたが、観音経は忘れたかのように口にしなかった。
「俺ゃ、また銃を持てえ云うたって、どうしろ云うたって、動けやせん!」骨折の上等兵は泣き顔をした。
八
錆のきた銃をかついだ者が、週番上等兵につれられて、新しい雪にぼこ/\落ちこみながら歩いて行った。一群の退院者が丘を下って谷あいの街へ小さくなって行くと、またあとから別の群が病院の門をくゞりぬけて来た。防寒帽子の下から白い繃帯がはみ出している者がある。ひょっくひょっく跛《びっこ》を引いている者がある。どの顔にも久しく太陽の直射を受けない蒼白さと、病人らしいむくみがあった。その顔に銃と、弾薬盒と、剣は、どう見ても似つかわしくなかった。
珍らしく晴
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