氷河
黒島傳治

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)扉《ドア》を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)もぐら[#「もぐら」に傍点]が

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)用心しい/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

      一

 市街の南端の崖の下に、黒龍江が遥かに凍結していた。
 馬に曳かれた橇が、遠くから河の上を軽く辷って来る。
 兵営から病院へ、凍った丘の道を栗本は辷らないように用心しい/\登ってきた。負傷した同年兵たちの傷口は、彼が見るたびによくなっていた。まもなく、病院列車で後送になり、内地へ帰ってしまうだろう。――病院の下の木造家屋の中から、休職大佐の娘の腕をとって、五体の大きいメリケン兵が、扉《ドア》を押しのけて歩きだした。十六歳になったばかりの娘は、せいも、身体のはゞも、メリケン兵の半分くらいしかなかった。太い、しっかりした腕に、娘はぶら下って、ちょか/\早足に踵の高い靴をかわした。
「馭者《イズウオシチイク》! 馭者《/\》!」
 ころげそうになる娘を支えて
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