。
礫《こいし》の多い、凸凹のところどころ崖崩れのある変な道で、洋車は歩くよりも遅くしか進まなくなった。二人は車をおりた。平生は、淋しい、大学に近い郊外の闇の中に、何か動く人の気配が感じられた。
「大丈夫かね。」陳は囁いた。
山崎は、自分でちっとも怖いとは思わなかった。それだのに、脚がひどく力がなく萎《な》えこんだ。脚だけがどうしたのか、つい、五六間も歩いたら、へたばりやしないか、彼は、それを危ぶんだ。
「呀怎※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]着了《ヤソンモチョラ》、※[#「にんべん+爾」、第3水準1−14−45]《ニ》!(おい、どうしていたい。……)」
ひょっと、狭い道を向うからすれ交るとたんに、人かげが声をかけた。が、中途で、人違いだと気づいたらしく、言葉を切って、疑い深げにあとを見かえした。
「蠢東西《チュントンシ》! (馬鹿野郎!)」陳長財は、振りかえりもせずに呶鳴った。
道の附近の、身の丈ほどの灌木の繁っているところにも、なお人が、動いている気がした。夜気がいくらか寒くなったようだ。
第一校舎の脇を通りぬけた。向うのアカ
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