眼は、何かを、しびれを切らして待ちもうけているもののように、いら/\していた。
街をもぐり歩いている陳長財《チンチャンツァイ》が、まだ帰ってこないのだ。
せいぜい徐州か臨城まで押しかけて来れば大出来だ、と高をくゝっていた北伐軍が、もう袞州《こんしゅう》を陥れ、泰安へ迫っていた。
防戦の張宗昌は、宿州から、徐州、臨城、袞州へと退却をつゞけた。宿州の激戦に依る負傷兵は、その儘《まま》、戦場に遺棄された。のみならず、前線から手足まといとなってついてきた他の負傷者達も、そこで、急ぐ退却の犠牲となって、片ッぱしから生埋めにされてしまった。
臨城では、彼は、なだれのように退却する部下の将校をピストルで射殺した。
山東兵は、南は、北伐軍に圧迫された。北の退路は、張督弁にふさがれていた。で、立往生をした。その一部は、やむを得ず途中で脇道にそれ、高峻な泰山を踏み越し、明水や郭店を通って、住みなれた都市へ逃げこんで来た。他の一部は蒋介石に投降した。
北伐軍の威勢が案外にあがるのは、金があるからだ。山崎は、総商会が蒋介石に金を出したという福隆火柴公司《フールンホサイコンス》のレポが嘘だったのを、
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