に領事館警察署員等に依って取りまかれていた。
 家の中は、ゴミ箱をごったかえすように、掻きまわされた。
 今度は、主人の竹三郎が封印をするばかりにした「快上快《クワイシャンクワイ》」の一と箱と、乳鉢、天秤等と共に、引っぱって行かれてしまった。
 間もなく、中津は、張宗昌のいる宿州へ向って出発した。
 戦線のひっぱくは、彼をして内部に思いなやんでいることを打ちあけるひまを与えなかった。
 彼は、夜行の汽車で出発した。

     一二

 日没後、なお、一と時は、物が白く明るく見える、生暖い晩だ。
 昼の雑鬧《ざっとう》と黄色い灰のようなほこりはよう/\おさまった。
 無数にうろついていた乞食の群れが闇に姿を消した。※[#「穴かんむり/缶」、211−上−16]子《ヤオズ》の家と家との間では、耳輪をチラ/\させた女が、奇怪な微笑を始めだした。
 山崎は、その家と家の間から出てきた。彼は、いつもの黒い支那服と違って、鼠色の、S大学の学生服を着こんでいた。生暖い街は潤《うるお》いを帯びて見えた。不安と険悪さは夜になる程ひどくなった。それを恐れないのは、マアタイにくるまった乞食だけだ。
 山崎の
前へ 次へ
全246ページ中85ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング