んの睾丸の中に這入っとった時分だよ。」
 ある時は、山寨の馬賊の仲間に這入り、ある時は、奉直戦争に加わり、又、ある時はハルピンの郊外に出没して、ロシア人の家を荒し、何人、人を殺したか数しれないこの不思議な、ゴロツキも、二人の妹には、おかしな、そして少し滑稽なおじさんにすぎなかった。
 彼は、張宗昌と共に戦線をかけめぐったり、北京に赴いたり、何万元かの懸賞金が頸にブラさがっているその頸の番をしたりするほか、二人の娘を相手に辛気くさいカルタを取った。麻雀を教えてやった。支那語の一二三を何十回となく、馬鹿のように繰りかえした。
 彼は、この家族の中に溢れている内地の匂いをなつかしがり、利己的にそれをむさぼっているかのように見えた。

 妹が寝てしまって、父親と、おふくろと、彼と三人きりになった。幹太郎は云い出した。
「長さんは、どうしても、おかしいな。――すゞに気があるんですよ。……それから、お俊にも一寸気がある。」
「馬鹿。」竹三郎は風を吹くように笑った。「中津は、俺と同い年だから、もう五十三になるんだぞ。それがたった、十七や八の小娘をどうするもんか。」
「いや、いや。――這入って来てから
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