はねとんだ。
中津が外から声をかけて門のかんぬきをボーイの王錦華《ワンチンファ》にはずさして、中庭の飛び石を、ひょこひょこやって来る時、窓からそれを見て、やはり、チンバ、チンバと、ぴんぴんはねて笑った。中津は、それをきいても、にこ/\していた。
「ねえ、おじちゃん、どうしてそんな脚でいくらでも人を斬ったり、はつッたりすることが出来るの?」
とうとうある日、俊は相手の気持を損じやしないか、顔色を見い見い、茶目らしい話しッぷりで切り出した。
「斬るんはこの脚じゃねえぞ、ピストルも刀も、この手だ。この手が使うんだ。」
だぶ/\の支那服の袖から、太短かい指を持った毛深い腕がのぞいていた。
「だって、おじさんのようにひょこ/\歩いていた日にゃ、斬るんだって、うつんだって人が逃げッちまうんじゃないの?」
俊の声は、なごやかに笑いを含んでいた。が、眼は、犬に立ちむかった瞬間の猫のように、緊張して相手の顔に注がれていた。
「なあに、これだって、いざとなりゃ、お前なんぞよりゃ早いんだぞ。」
「そう。――おじさん。どこで怪我をしたん?」
「どこだって――それゃ、もう遠い遠い昔だ。お前らまだ、親爺さ
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