守をまもる兵士のしわざだ。
 彼等は、捲きあげて水をつる井戸の釣瓶や塀の棒杭や、茶碗や、茶壺を持ち出した。しまいに残ったのは、持って行く訳に行かない兵営の家だけになった。と、彼等は、その家についている、窓硝子や、床板をはずして街をホガホガ持ち歩きだした。そんな姿が、チラホラ見えた。――彼等の、いくさ[#「いくさ」に傍点]の強さはこれで分った。
 竹三郎の家はすゞが帰ると、切り立ての生花をいけたように、清新になった。
「青島には巡洋艦が一隻と、駆逐艦が四隻も碇泊してるのよ。銃をかついだ陸戦隊があがってたわ。ズドンと大砲をぶっぱなしたら、陰気くさい支那人が『デモだ』なんて云ってるのよ。」
 すゞはこんな話をした。
 一郎は、すゞを、親のように、「かあちゃん、かあちゃん。」ともとりかねる言葉でよんだ。
 幹太郎は、今頃、とし子が居たならば! と考えるともなく、なつかしがった。とし子は、※[#「やまいだれ+隠」、第4水準2−81−77]者の親爺や、その親爺を盲目的に尊敬する義母を、むきつけに、くさしていた。支那でなけりゃ、内地へ帰っちゃ、親爺もおふくろも、生存さえ出来ない。廃人だ。とし子に云わ
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