いていた。
「こいつの亭主は、決して土匪じゃねえんだ!」と、百姓はぐるりへたかってくる人々へ説明した。
「日本人の親方がこれの亭主に云いつけて、土匪のもとへ商売にやらしたんだ。そこを官憲に見つかって、土匪と一緒くたにされちまったんだ。自分のボーイに商売をやらしといて、捕まりゃ、もう日本人は解雇したから知らねえと云い張ってるんだ。悪えのは親方だよ。……親方が悪えんだよ! 日本人が悪えんだ!」
 硬派でも軟派でも、細々と、小心に、ちょっとずつ扱っている人間は、発覚すると、自分自身の血税で、そのつぐないをつけさせられている。ところが、大々的に、何にでも手を出している人間は、取りこむだけのものは取りこんだ。血税は、使っているボーイが払わせられた。支那人のボーイは、主人の外国人の命令で、硬派の商品の運搬中に、逮捕せられ、水にぬらした皮の鞭の拷問や、でたらめな裁判で、死刑となることがどれだけあるか知れなかった。
 幹太郎の一家は、自分で自分の血税を払っている組だ。彼は興奮せずにはいられなかった。若し、捕まった支那人のボーイと、それを使っていた外国人の主人とが、切っても切れない連絡があった確証が上が
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