ひろげて娘のような女を抱き止めた。と、女はその腕の中へ身を投げた。纏足の脚をばたばたやりながら号泣した。
「寃※[#「口+那」、204−上−19]《ユアンナ》! 寃※[#「口+那」、204−上−19]!」彼女は、百姓の腕に泣きくずれた。「悪い人は主人です! 悪い人は主人です! 主人がうちの人をこんなめにあわしてしまったんです!」
「諦めなさい、諦めなさい! どんなに歎いたって死んだものが生きかえれやせん」
老人は女をなだめた。「仕様がねえ! 諦めなさい! 諦めなさい!」
群集は、再び緊張して、その女の周囲に集りだした。彼女は、軍歌を唄い、包子をほしがり、砲台牌をねだったあの男のために悲しんでいた。山崎は、女と見ると、何か仔細ありげに中津に耳打ちをした。幹太郎は、なぜか、彼の直観に結びつくものを感じた。中津は、人々を押し分けて兵士達の方へ急いだ。
「あのデボチンは、支配人に使われとったボーイじゃなかったですかな?」幹太郎は、何気なげに訊ねた。
山崎は、聞えなかったもののように、そっぽをむいていた。
「むじつです! むじつです! 悪い人は親方です! 親方です!」
女はやはりすすり泣
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