木を並べている房鴻吉《ファンホウチ》に、彼は、なでるように笑ってみせた。房《ファン》の頭は、ホコリで白くなっていた。平べったい鼻の下には、よごれた大きい黄色い歯が、にやりとしていた。
「あといくつだい?」
「三ツ、三ツ」房は、あたふたと答えた。枠台車《わくだいしゃ》に三台のことだ。
「早くやれ。」
「すぐ、すぐ。」
 房は小さい軸木を林のように一面に植えつけた木枠に止め金をあてがった。ピシン/\とつまった音がした。
 幹太郎は、そこから、浸点作業へ通り抜けた。焼くような甘味のある燐の匂いが、硫黄や、松脂ともつれあって、鼻をくん/\さした。
 開け放された裏の出入口からは、機械鋸と軸素地剥機《じくそちはくき》が、歯を削るように、ギリ/\唸っていた。生の軸木を掌《て》にとってしらべていた小山は、唾を吐くように、叺《かます》にポイと投げて汚れた廊下をかえってきた。
「君、于《ユイ》の奴をどう思うね?」
 幹太郎の受持の、常から頭の下げっ振りが悪い変骨の于立嶺《ユイリソン》を指しているのは分っていた。
「どうも思いません。」
「あいつの仕事は、いつもおおばち[#「おおばち」に傍点]だから、浸点
前へ 次へ
全246ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング