た。
 塵埃と共に黄燐を含んだ有毒瓦斯は、少年達へと同様に、彼の肺臓へも、どん/\侵入して来た。
 ――君は、一体、支那人かね。それとも日本人かね? 最近、瑞典《スエーデン》マッチの圧迫を受けてぷり/\している不機嫌な支配人は、彼がむしろ支那人に肩を持つ癖があるのを責めて、皮肉な辛辣な眼つきをした。
 幹太郎は、親爺が、とうとうヘロ※[#「やまいだれ+隠」、第4水準2−81−77]《いん》者となってしまった。それと、これを思い合わして淋しげな顔をした。日本人はヘロを売ってもかまわない。しかし、支那人の如くヘロを吸ってはいけない。そのヘロを親爺は、支那人の如く吸飲した。支那人の如く※[#「やまいだれ+隠」、第4水準2−81−77]者となってしまった。
「俺れらは、日本人仲間からも嫌われているんだ、どうも、追ッつけ、俺れも、この工場からお払箱か……」
 実際、幹太郎は、すれッからしの日本人よりも、支那人に対して親しみが持てた。又、工人達も、彼に対して、ほかの小山や守田に対するよりも、親しく、ざっくばらんであるように見えた。

「お前あといくつだい?」
 軸削機をがちゃ/\ならして、木枠に軸
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