! 包子を持って来い!」
彼は、頭を振って叫びつゞけた。
群集は、銃を持った兵士が制するのもきかず、面白がって、前へ、前へとのり出した。幹太郎は、支那人の、脂肪と大蒜《にんにく》の臭気にもまれながら人々を押し割った。
うしろへまわした両手を背中で項《うなじ》に引きつるようにされていた囚人は、項からだけ繩をときほぐされた。眼を垂れ、蒼白に凋れこんでいた一人は、ぼう/\と髪がのびた頭をあげた。
「俺れだって、好きや冗談で土匪になったんじゃねえんだぞ………」悲痛な暗い声だった。
動かせないように囚人の頭と、背を支える二人の地方《ティフォン》がこづきあげた。動かせないのは、斬り易くするためだった。
「包子をよこせい! 包子をよこせい!」
「またあの眉楼頭《メイロートー》(デボチン)は駄々をこねてるよ。」
幹太郎の傍で、紫の服を着た婦人が囁いた。前髪をたらしていた。すると、そのうしろの前歯のない老人が、
「やれ、やれ、もっとやれ! 困らしてやれい!」とそこら中へ聞えるように、何か明らかな反感をひゞかせて呶鳴った。
幹太郎は群集にもまれながら、うしろから肩をつつかれた。
山崎だった。
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