の天向きの可愛い鼻だって、眼もとだって、細長い眉だって」俊は嬉しげに笑った。彼女は、去った嫂《あによめ》と一番の仲よしだった。
「天下筋の通っている手相までが、そっくりなんだわよ!」
 俊は、嫂を去《い》なしてしまったことに不服を持っていた。その不服の対照は母だった。母は最初だけ、珍らしい内は、下にも置かないマゼ[#「マゼ」に傍点]方をする。が、暫らくして、アラが見え出すと、それからは、徹底的にクサスのだ。俊は、それが大嫌いだった。
 彼女は、編んでやった一郎の毛糸のドレスの藁ゴミを指頭でツマミ取った。そして、倒れないように、肩を支えて子供を歩かしながら、兄の方へつれて行った。
 母は、工場が引けて帰る幹太郎を待ちかねていた。すゞがいないことは彼女を淋しがらせた。
「何ですか?」
 母の顔はそわ/\していた。
「一寸、油断しとったら、早や、王《ワン》が黙って、『快上快《クワイシャンクワイ》』を、持ち出して売ってるんだよ。」
「ふむ。」
「こないだだって、靴直しに三円持って行って、あれで、一円くらいあまっとる筈だのに自分で取りこんどるんだよ。」
「ま、ま、知らん顔をして黙っときなさい。」
前へ 次へ
全246ページ中48ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング