だし、あいつはあいつで生意気だし、役に立たんが、ただ、あれのおふくろが気の毒でね……」
七
黄風《ホワンフォン》が電線に吠えた。
この蒙古方面から疾駆して来る風は、立木をも、砂土をも、家屋をも、その渦のような速力の中に捲きこんで、捲き上げ、捲き散らかす如く感じられた。太陽は、青白くなった。人間は、地上から、天までの土煙の中で、自分の無力と、ちっぽけさに、ひし/\とちゞこまった。彼等は、いろ/\なことを考えた。
支那、支那、何事か行われているが、収拾しきれない支那!
ここの生活はのんきなようで、一番苦るしい。つらい!
人間は、自分の通ってきた、これまでの生活が疵《きず》だらけであることを考えた。――ある者は、それを蔽いかくして生きて行かねばならぬと決心した。ある者は、自分で、自分の為したことにへたばった。
俊だけは、憂鬱に物を考える人の中で、一人だけ、何も考えず、何も思わず、三歳の一郎をあやして、ふざけていた。
一郎は、「テンチン」「テエアンチーン」など、支那語の片言をもとりかねる舌で、俊に菓子を求めた。
「一郎は、まるで、トシ子さんそっくりだわ。……それ、そ
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