「ふふむ、君は一体、支那人かね、ロシヤ人かね、――過激派の。」
「日本人ですよ。」
 幹太郎は、狂暴なものが、一時に、胸のなかで蠢《うごめ》くのを感じた。この二人に対してなにかしてやらねばならない!でなければ、胸のなかの苦痛は慰められない。だが、彼のやろうと思うことは、あまりに、結果がはっきりと分りすぎていた。
「日本人なら、日本人らしくしとり給え!」と小山は云った。「理屈ばかりじゃ、マッチは出来ねえんだから。」
「工人を見殺しにしちゃ、なお、マッチは出来ねえでしょう。」とうとうこらえていたものが、爆発してしまった。「泥棒! バクチ打ち!……」
 彼は、横の椅子を掴みあげた。ひょろ/\しながら、それを振り上げた。
 だが、内川は、豹のように立って来て、その椅子を取り上げた。
「馬鹿! 馬鹿! 何をするんだ猪川! 何をするんだ!……」
 幹太郎は扉の外へ押し出されてしまった。バタン! と扉が閉った。
「実際、あいつは、若いからね。」と、内川は緊張しきって、眼が怒っている小山に笑った。
「仕方のない奴だ。わしも、あいつのおふくろが気の毒だから、あれを使っているんだ。あいつの親爺はヘロ中
前へ 次へ
全246ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
黒島 伝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング