来て呉れていないことを残念がった。
「しかし、物はなんでも比較の上の話ですよ。」
幹太郎は、悪党に対して純なものの正しさを譲るまいと心がけながら云った。
「働くという点から較べると、日本人は到底支那人には及ばんですよ。それに、内地じゃ組合が出来たり、ストライキをやったりして労働者が、そうむちゃくちゃに、ひどい条件でこき使われて黙っちゃいなくなっていますよ。」
「そんなこた俺れゃ知らん。――そんなこたホヤホヤの君が知っているだけだよ。」小山は幹太郎がうぶいことを軽蔑した。「吾々が支那までやって来て、苦力のように働くってことがあるかね。吾々は奴等に仕事を与えているんじゃないか。ね。吾々が、こうしてこの土地に工場をこしらえなかったら、奴等は、ゼニを儲ける口もありゃせんのだよ。洋車《ヤンチョ》だって俺等が乗ってゼニを払わなかったら、誰れからゼニを貰うかね。それを、何を好んで、俺等が、奴等と同じレベルにまでなりさがって働くって法があるかい!そんなこた、それゃ、日本人の面汚しだぞ。」
「働くことが何で面汚しなんだ!」と幹太郎は考えた。「何てばかな奴だ。」
「もっと年を喰やア、君だって今に、分るん
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