こっちがいくらよくしてやったって、それで十分なんてこたないんだ。十円くれてやったって、シェシェ[#「シェシェ」に傍点]でそこすんだりだ。一円くれてやっても、やっぱし、シェシェ[#「シェシェ」に傍点]でそこすんだりだ。十銭くれてやっても、同じように、シェシェ[#「シェシェ」に傍点]とは云うよ。だから奴等に、大きな恩をきせてやるなんか馬鹿の骨頂だよ。――それで、貰ったが最後、なまけて、こっちの云うことなんかききやしないんだ。」
「朝鮮でも、満洲でも、――ヨボやチャンコロは吾々におじけて、ちり/\してるんだがな。」
 支配人は繰り返えした。
 汽車で席がない時、あとから乗り込んだ彼等が、さきから乗りこんでいるヨボを立たして、そこへ坐るのが当然とされている。それを、皆に思い出させながら、
「それが、こっちでは支那人が威張りくさってやがるんだ。やっぱし、ここにゃ、日本の軍隊がいないせいだな。」
 彼等は、満洲や朝鮮をゴロツク間に、不逞なヨボや、苦力が、守備隊の示威演習や、その狂暴な武力によって取っちめられてしまうのを、痛快に思いつつ目撃して来た。
 彼等は、ここに、そういう、日本帝国の守備隊が、
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