なれなかった。
 親爺は仕事らしい仕事は殆んど出来なくなっていた。そして親爺の代りは、妹のすゞがした。彼女は、今、三、四|封度《ポンド》を携えてくるために内地に帰って行っていた。
 邦人達は、たいてい、この軟派を仕事としている。饅頭屋、土産物商、時計屋、骨董屋などの表看板は、文字通り表看板にすぎなかった。内川は大量を取扱う卸商とすれば、彼等は小商人だった。――そんな商売をやる人間がここには一千人からいた。
 竹三郎もその一人だった。
 阿片は、苦力や工人達には、あまりに高すぎる。そこで、阿片の代りに、もっと割が安い、利き目が遙かにきつい三号含有物がここでは用いられた。阿片なら、三カ月間、吸いつゞけても、まだ中毒しない、しかし、ヘロインは、十日で、もう顔いろが、病的に変化するのだった。
 ――これにも主薬と佐薬がある。調合がうまくなければ、売行はよくなかった。そして、その調合法は、それぞれ、自分の秘密として家伝の如く、他人には容易にそれを話さなかった。竹三郎は、いろいろな仕事に失敗して、とうとう、一番、最後の切札に、この三号品を扱い出した。当初、売行が悪いのに、苦るしんだ。何もかも、すべ
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