、新しい病衣を着た。
 城壁は、翌日、午前中、陥落した。ベッドに坐って彼はそれを聞いた。傷の疼痛は、だんだんに少くなった。肩の負傷は、歩くことには一向差支なかった。三日目に、木谷と山下が見舞に来た。
「おい、柿本、どうだい。」木谷は、男性的な渋い声で叫んだ。「高取らがやられていたぞ! 五人とも黄河の河畔で、犬に喰われて白骨が出ていた。」
 多分そんなことになっただろうとは感じていた。が、現実にそれをきくと、柿本は、ぎくッと心臓が突きのめされた。
「そうか、やっぱしそうだったか。あの晩にうな[#「うな」に傍点]されたのは、だてや、冗談じゃなかったんだな!」
「今、五人とも、屍室《しかばねしつ》へ運んできている。」
「一体、誰奴《どやつ》にやられたんだ!」黒岩が云った。「誰奴がやりやがったんだ。犯人は、はっきり分らんか?」
「黙っていろ! それをきいたって無駄だ。」木谷は、厳粛な素振りで手を振った。「云わなくたって分っている。あいつだ!」
「あいつッて?」
「あいつだ!」
 暫らく彼等は無言でいた。
 傷ついた肩から玩具のようにブラさがっている片腕を、三角巾で首に吊って柿本は、木谷らと、屍
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