かし、林へ這入ってしまうまでには、まだ、もう一つの村があった。
 村のたむろ所には巡警のたまりがあった。
 行儀正しくあとにつゞいている粗麻の喪主と、泣き女はくたびれると、欠伸《あくび》をして変に笑った。それが一人の巡警の眼にとまった。
 そこで、葬列が村の屯所の前にさしかゝった時、状態が急に変化した。棺車は停止を命じられた。
 銃と剣をつけた巡警は、車を取りまいた。
 棺桶を蔽う天蓋や、黒い幕は引きめくられた。桶の蓋《ふた》はあけられた。蓋の下は死屍でなく、鉄砲と手榴弾が、ずっしりと、いっぱいに詰めこまれてあった……。
「うへエ!」
 山崎はそんなことをも知っていた。内川は人の意表に出る男だ。

     五

 十王殿《シワンテン》附近に、汚ない、ややこしい、褌《ふんどし》から汁が出るような街がある。
 幹太郎はそこの親爺の家に住んでいた。
 そこには、彼の二人の親と、母親のない一人の子供と、二人の妹が住んでいた。彼は、そこから、商埠地《しょうふち》の街をはすかいに通りぬけて工場へ通った。
「あの、よぼよぼのじいさんは日本人ですか?」
 邦人達は、黄白の眼が曇った竹三郎のことを、知
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