道を、なお、山奥へ、樹々が枯色をした深い淋しい林へ、耳の長い驢馬《ろば》に引かれた長い葬式の列が通っていた。
 棺車は六頭の驢馬に引かれていた。驢馬は小さい胴体や、短かい四本の脚に似合わず、大きい頭を、苦るしげに振り振り、六頭が、六頭とも汗だくだくとなっていた。そのちぢれたような汚れた毛からは、湯気が立った。
 棺は死人を弔《とむら》うにふさわしく、支那式に、蛇頭や、黒い布でしめやかに飾られていた。喪主らしい男は、一人だけ粗麻の喪帽をかむり、泣き女はわんわんほえながらあとにつゞいていた。
 町で死んだ者が、郷里の田舎へつれかえられているのだろう。
 だが、一人の死屍に、そして、山の方へだが、まだ、山へはさしかからず平地をつゞいて行くのに、どうして六頭もの馬が、湯気が立つほど汗をかいているのだろう。
 どうして、一人の死屍がそんなに重いのか?
 巡警は、不思議に思った。
 暫らくは安全だった。普通葬列は、馬に引かれず、人の肩に棒で舁《かつ》がれて行くべきだ。それも巡警の疑念を深くした。が、二人の巡警は、棺車を守る七八人の屈強な男の敵じゃなかった。そして葬列は林へ、山へと近づいて行った。し
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