いぞ。もはや、戦死が九人。――聯さん[#「聯さん」に傍点]が抜けがけの功名をあげるとてあせっているからだ。」新しく柿本の傍のベッドへやってきた担架卒は、太い低声《こごえ》で、運んできた負傷者[#「負傷者」は底本では「象傷者」]に喋っていた。「幹部の功名心は、俺等を踏台にしなきゃ遂げられねえ性質を持っているんだ! 旅順攻撃にだって、屍の山を積んだんだ。それで、一人の大将が、神さまに祭られてら!」
 柿本はうすうすきいていた。
 □×とは、彼の聯隊だった。見ると、ベッドに移されているのは、中隊の黒岩である。ズボンを取って脚にくゝりつけた三角巾が、赤黒くこわばっていた。彼等は、隊長の功名心や、ほかの部隊との競争心から、むやみの突撃、前進を強いられていた。見す見す傷つき倒れる。××氏大隊□□占領! △△氏中隊どこそこを奪取! この報知に虚栄心を燃やされるのは「長」がつく人間だった。
「無理をするからだ。誰れにだって出来ねえことを、一と息でやって見せようと見栄坊を張ってやがるんだ!」
 黒岩は、傷の痛みを感じるよりも、神経が立っている話し振りで話した。
「どこの部隊だって、兵タイにゃ、最大限度の
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