しねンであります。」
高取は、一寸、まごついた。が、すぐ、光った眼で中尉を見つめた。
「よせ!」重藤は、儼然と云った。「俺れは何もかも知って居るんだぞ!」
「はい、何ですか?」
償勤兵となった彼は、これまでにも、幾度か殴られた。蹴られた。指揮刀が歪むほどひッぱたかれた。彼は、何回となくそれを忍んできた。ほかの者だって、そんなに異いはしなかった。
「こうして、この結果、俺等が現にやらせられているのは、何であるか? 自分で、自分の頸を縛ることだ! それ以外のなんでもない! 兵タイほど、人のいゝ馬鹿な奴はない。」
兵士たちは、高取を殴るのは、高取一人を殴るのではない。自分たち、全体をも殴るのだ! と感じた。おどかしにやっているのだ。彼等は、顔色が変った。
敏感な重藤は、正確な晴雨計のように、すぐ、それに気づいた。兵士たちが、色めいて、変に動揺しだしたのを眼にとめた。もうこれ以上殴りすえては、却って、藪蛇になる。部隊全体に対して。と感じで意識したが、語調の行きがかりが、意識を裏切った。高取は、上をむいて何か云おうとした。中尉はそれを遮った。
「一体、お前らは、何事を考えだしているんだい
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