? ええ? 一体、どういうことを考えだしているんだい?」
「自分達が苦るしめられるために、働いてやりたくはないんであります。」
「ふむ、――苦るしめられたくはないと云うんだな。(わざと相手の言葉をごま化した。)……それなら命令をよく聞け! 命令をききさえすればいゝんだ。」
「……。」
 重藤は、それ以上、突ッこまなかった。大胆不敵な彼も、多数の前には恐怖した。彼は、兵士たちの顔色を見い見い、言葉を切った。しかし兵卒を扱って来た経験から、自分の云った命令が、実行されないかも知れないという疑念を、絶対に素振りに出してはいけない。自分の命令は、必ず、確実に実行されるものだ。と、信じ切っている。そう兵卒に見せる。それが必要であるのを心得ていた。そして、その態度を取った。高取の態度は、決して、彼に満足を与えるどころじゃなかった。しかし、彼は、これで、注意はすんだというように、身体のこなしを一新して、整列した兵卒にむかった。

     三一

 兵士は藁人形のようにバタバタと倒れた。
 方振武は頑強に、城内に踏み止まっていた。
 どんな妨害に抗しても、天津、北京へ、攻めのぼらずには置かない意気を
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