るな! と思った。
勇敢で、単純で、感情的な重藤は、自分の扱っている兵卒の要求と、本能を直感的に見抜く鋭敏な才能を持っていた。
彼は、その自分の感じによって、兵卒が、上官の眼の行き届かないかげで、何かこそこそやっているのを知っていた。たちが悪い。明かに信服しなくなっている。高取は、職長を殴りつけて、工人への給料を全額、暴力で払わしていた。それ以来、少くとも、五六人の兵タイは、国家のために出征しているのか、工人と一ツとなって不届き至極なことをやるために来ているのか区別がつかなくなっていた。彼は、中でも、特に、高取に最も注目していた。なお、多くの兵士らも、自身から、高取の言説に心をひかれている。それも分った。それには、理由がなければならない!
人事をやっている特務曹長もこれに気づいていた。特曹は、支那の共産党員と、何か共謀して事をたくらんでいると、重大視していた。しかし、重藤は、その点、どうせ兵卒のやることだ、どんなにしたって、大したことは出来ない、と高をくゝっていた。
彼は、整列した兵士たちの眼に、動揺と、不安と、ある意気地なさを見ると、すぐ原因を高取らのこそ/\に帰した。そして
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