どや/\となだれこんだ。白い服の看護婦がちら/\していた。ベッドには病人がねていた。肋膜炎、腎臓炎、胃かいよう[#「かいよう」に傍点]、心臓弁膜不全症――内科と外科は別だった。多くの部屋を区切った扉は、次々に、バタン、バタンと突きあけられた。泥靴がベッドにとびあがった。手術台の厚い硝子は、亀裂が入った。
これが、その当時の記録に、「第×××聯隊が、逐次暗夜を辿りつゝ城門に近づかんとするや、俄かにその北側にあるT病院内より支那兵の猛射を受け、危険極まりなきに到ったが、該建物が病院たるの性質にかんがみ、一時、その措置に窮した。しかし、何分、事態急迫し、躊躇すれば、暴兵の乱射のため、多大の損害を受けざるを得ぬので、N大尉は一部隊を以てこれを駆逐せしめた。当時、急迫の場合の措置として、寔《まこと》に、止むを得なんだのである。云々」と弁じている事件である。
約三十分の後、兵士たちは、不愉快な記憶を脳髄にこびりつかして、病院を引きあげた。不愉快な記憶は、一日中、とれなかった。翌日も、それは取れなかった。柿本は気がすゝまぬ様子で、渋々と動作をした。そして何か、自分でも分からないような考えにふけ
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