、前方で爆発する。それに応じるもののように、反対の東の方で、銃声が連続して起った。柿本は、腓脛《ふくらはぎ》が、ぴく/\、ぴく/\と顫えた。そして全身で身顫いした。
 その時である。中隊の縦列は、だしぬけに、側面から射撃を受けた。中隊長は、耳のすぐ上で、数発の銃声がパチパチとひゞいたのをきゝとめた。T病院の二階からだ。柿本もそれをきいた。銃声は杜絶えた。
「あ、あ、あんなところから不意打ちを喰わして居る!」
 特務曹長は、なさけなげな声を出して、アカシヤのかげにかくれるように伏せをした。兵士たちは顔を見合わした。ひとりでに、微苦笑が口をついて出た。同時に、彼等は、たまげちゃったような中隊長の散解[#「散解」はママ]の号令をきいた。
「そら、また、ここへ突ッ込めだぞ。」
 高取は、にた/\意味ありげに笑って、どっしりとした玉田に云った。柿本にもそれが聞えた。
「なんだ、何も居りゃせんじゃないか。」
 玉田は、頸をあげて、二階建の病院を見まわした。それが終らないうちに、右翼は、重藤中尉が先頭に立って、開き扉を押し割り、着剣した銃を突き出し、クレゾールくさい室内へ突入していた。つづいて兵士が
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