っかり掠奪され、明日から宿も、食物もない心配で、くしゃ/\していた。折角、俺れがやって来ていながら、どうにもしてやることが出来なかった! 高取らが、でくの[#「でくの」に傍点]坊の馬鹿のようにして歩いているのにも理由があった。忍従しているのだ。
 中隊は破壊しつくされた街に這入った。窓硝子、扉、壁、屋根、すべてが滅茶苦茶だ。籐張りの女の下駄が片脚だけ放り出されて、靴にあたった。兵士たちは、石の高い頑丈な家と塀とをまわって、広い荒らされた、草ッ原に出た。そこをはすかいに横ぎった。そして、又、破壊された家ごみに這入った。縫うように、細い道を折れ曲った。
 太陽は、壊れたぎざ/\の屋根の間から輝かしく、鮮やかにぬッと浮び出た。空の方々に散在していたきれぎれの雲は、どこかへ消え失せてしまった。また暑くなる! ごたごたしたすべての物が、強く照し出された。
 中隊は大通りへ出た。城壁の外門へ一直線である。外門の上の建物に、青天白日旗が、ひら/\と翻《ひるがえ》って見えた。
 どこかで、何かの合図が聞えたものゝようだった。と、遙か後方の砲列を敷いていたあたりから、砲声が轟き渡った。つゞく。空を唸って
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